消費者を惑わせる植物性乳酸菌の話しの次に、スーパーで売られているカスピ海ヨーグルトのお話しをしましょう。
数年前に、農芸化学会というバイオサイエンスの最先端の研究者が集う学会に参加した時の発表内容で、某大学の研究チームによる、カスピ海ヨーグルトの遺伝子分析結果に関するものがありました。

件の内容は、カスピ海に隣接するヨーグルトとして販売されている製品数種類の遺伝子を解析したところ、すべてカスピ海周辺で食用されている菌株とは異なる株であった、というものです。
カスピ海のある地域は、黒海とカスピ海にはさまれた、乳酸菌の故郷や長寿で有名なコーカサス地方です。
研究グループは、実際にカスピ海まで出かけていって、付近で食されているヨーグルトに使われている菌株を採取し、全て持ち帰り日本でカスピ海ヨーグルトとして販売されているヨーグルトと比較するため、遺伝子解析をした結果です。
つまり・・・カスピ海近郊で食されているヨーグルトなどから採取した乳酸菌を使ったヨーグルト、ということで宣伝されていた製品が、実はカスピ海でなく、別のところで使われていた菌株を使っていた偽装食品であるという事でした。
後を絶たない産地が偽装された食品の仲間に、カスピ海ヨーグルトも入っていたというものです。

肉や魚などの食品の場合は、輸入元や業者を調べていけば、偽装を見抜くことも簡単にできるのですが、乳酸菌の場合は、顕微鏡でのぞいても菌に名前が書いてあるわけではありませんから、「産地」が偽装されても、このように遺伝子解析をしなければ見抜くことはできません。 「遺伝子解析でもしなければバレないだろう」という、メーカーの思惑が見え隠れします。
上記の植物性乳酸菌にしても、同様のことは言えるわけです。
カスピ海ヨーグルトにしても、大手の食品メーカーが販売する製品であれば、消費者は無条件で信用してしまうわけで、学会で発表された本件について、厚労省が調査に乗り出した、という話しも聞きません。
厚労省というよりは、公取委による『景品表示法』違反(表示した内容が実際と異なる)でしょうが。

いずれにしてもカスピ海付近で使われている菌株だけが、ヒトに対しての機能性に優れているというわけでもありません。 一般に、食品に使用される菌株は機能性よりも味や保存性が重視されますので、カスピ海であろうが、日本の菌であろうが、美味しければ由来はどうでもいい話ではありますが。